蒼天のかけら 幕間 真導士の休日
真導士の休日(9) 〜おまけという名の終幕〜
すっきりとした気分で目を覚ました。
いつになく、身体が軽くて気分がいい。
掛け布を取り払い。寝床から抜けて、窓掛けをさっと開けた。
いい天気だ。
今日から学舎に行く日である。
鏡台の上には木箱が二つ。片方にはゼニール、もう片方にはアンバーの作品が入っている。
悩みに悩んだ挙句。アンバーの鎖を手に取った。
華奢な鎖を足首に巻けば、さらりと肌の上でゆれる。そよ風のような心地よい感触に、嵌められた悔しさがほんの少しだけ癒された。
不機嫌で。気が利かなくて。不遜極まりない高士ではあるけれど。この贈り物だけは、ありがたく受け取っておこう。
あの人の耳に入れば「偉そうに」とでも言われるだろうが、心の中だけなら問題はない。
犬扱いも辞めてくれたことだしと、満足しながら木箱を片づけていた途中。木箱の中に入っていた、四つ折りの紙に気づいた。
何だろうと紙を広げ、目を見開く。
(バトさんったら!)
紙の上部。流れるような文字を読み砕いてから、腰を浮かせた。こんな大事な書類を、どうして箱の中になど仕舞ったのか。とにかく返しに行かなければと、焦りに焦る。
一刻も早く届けようと、大急ぎで身支度を整えた。
箱にあったのは一枚の書類。
神鳥の透かしが入っている上質な紙には、こう書かれている。
任務概況報告書――。
片付けると言っていた書類の一部に間違いない。意外と粗忽なところもあるのだと考えて……違和感が駆け抜けた。
あのバトが、こんな間違いを犯すだろうか?
変な感じが身体を支配している。
背中を這いまわる違和感の正体を見極めようと、機密が書かれているはずの報告書に視線を落とす。一文字、一文字ゆっくりと読んで……頬が発火するような熱を帯びた。
書類の中身はこうだ。
『任務概況報告書』
案件名:子犬の世話
・餌やり
・水やり
・散歩
・首輪の新調
以上、滞りなく任務を遂行したことをご報告申し上げる――。
すべての文字を読み切ってから、怒りのあまりふるふると震えた。
……あの人は。
本当に。
ひど過ぎる!
子供扱いも犬扱いも、まったく辞めていない。
気が利かない癖に、意地悪な時だけ芸が細やかだ。そんなところも抱いた悔しさを大いに刺激する。
むかむかとした気分を抱えて居間に出る。
すでにいた人影に「おはようございます」と声を掛ければ、びくりと黒髪がゆれた。
「どうしました?」
挙動不審な彼に問えば、めずらしく小さな声で何でもないと返ってきた。
普段であれば変だと思っただろう。しかし、いまの自分にそれを考慮するゆとりがなかった。よく見れば、目元にくまが浮いていることも、耳と頬が赤いことも気づいたかもしれない。
けれど、この日の自分では、どうしたって気づけなかったのである。
その日、サガノトスの学舎で。
それぞれに違う表情を作り、同じように顔を赤くしていた番を、誰も彼もが遠巻きに見守っていた。